クローン病肛門部病変について

クローン病肛門部病変の疫学

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クローン病肛門部病変の疫学

クローン病は全消化管で病変が起こりうる原因不明の炎症性腸疾患です。痔瘻や肛門周囲膿瘍といった肛門部病変を合併することも多く、福岡大学筑紫病院で診察されたクローン病患者650例における肛門病変の合併頻度は、80.6%(524/650例)でした。なかでも痔瘻・膿瘍が64.0%(416/650例)と最も多く次いで裂肛・潰瘍(28.3%:184/650例、皮垂(27.7%:180/650例が認められました。また病変が混在している例も60.3%(316/650例)に認められました(1)
クローン病では肛門部病変が腸管病変に先行することも多く、本研究でも35.4%(230/650例)が肛門部病変先行例であったと報告されています。

肛門部病変を合併するクローン病患者では、QOLが低下することが報告されています。オーストリアにおいて肛門膿瘍及び瘻孔の手術を受けた、ストーマを造設していないクローン病患者69例の調査では、健康関連QOLであるSF-12身体健康スコアの中央値はクローン病患者群が54.3、対照群が47.9、IBDQの中央値はクローン病患者群がいずれも健常人と比較して有意な低下が観察されました(2)
また便失禁(固形便液状便ガスの不随意な漏出)は59%の患者に認められ、IBDQの有意な低下と関連していることが明らかになりました(p=0.0006 vs 年齢をマッチさせた便失禁のない健常対照者)2)
便失禁は痔瘻の手術後に頻繁に起こる可能性があります。クローン病患者の肛門部病変は複雑例が多く、繰り返し手術を必要とすることから、特に便失禁の症状が出やすいといわれており、QOL低下の点から注意が必要となってきます。

表.クローン病における肛門部病変の合併頻度
(福岡大学筑紫病院のデータ)

表.クローン病における肛門部病変の合併頻度(福岡大学筑紫病院のデータ)

東大二郎, 二見喜太郎: 現場のエキスパートが教える 実践!IBD診療(渡辺守総編集), 20-29, 医学出版, 2014.

図.肛門部病変の手術歴のあるクローン病患者のQOL
(海外データ)

図.肛門部病変の手術歴のあるクローン病患者のQOL(海外データ)

対象と方法:1994年から2010年にウィーン医科大学外科で肛門周囲の膿瘍及び瘻孔の手術を受けたクローン病患者147例に対して自己記入式アンケート調査による健康関連QOL(SF-12及びIBDQ)の調査を行い、回答が得られた88例からストーマ造設患者を除外した69例を対象に解析した。年齢(±6歳)及び性別をマッチさせた健常者を対照群とした。

Limitation:肛門周囲手術前のQOLを評価しなかったため、各患者に対する手術の直接的な影響は評価できなかった。解析に含まれる患者数が多かったにもかかわらず、数例の患者がアンケートに回答しなかった。

SF-12健康調査:8つのSF-36尺度のそれぞれ1~2項目を含むSF-36の12項目が調査対象となり、身体的・精神的症状の要約尺度の算出に用いられる。

IBDQ(inflammatory bowel disease questionnaire):32の質問から成り、各質問は1点(最も悪い)から7点(最も良い)。全体的なスコアは、腸、全身、情動及び社会的機能の4つの下位尺度を要約している。スコアが高い場合は、両検査ともQOLが良好であることを示す。

Riss S, et al.: Tech Coloproctol. 2013; 17(1): 89-94.より作図

1)東大二郎, 二見喜太郎: 現場のエキスパートが教える 実践!IBD診療(渡辺守総編集), 20-29, 医学出版, 2014.

2)Riss S, et al.: Tech Coloproctol. 2013; 17(1): 89-94.

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